業種の一つである「海運」について、解説していきたいと思います。
海運株といえば、2021年に株式投資界に一大ムーブメントを起こした爆益株です。
コロナ禍という環境を追い風に、大きく業績を伸ばし、大躍進しました。
さらに、そのとてつもない利益を配当や自社株買い等にて株主に還元し、さまざまな投資家を魅了しました。
今回は、その「海運」について、解説していきたいと思います。
海運とは
Wikipediaには以下のように記載されております。
海運(かいうん、英語:marine transport)は、水運のうち、海上を利用した旅客輸送・貨物輸送である。
海運はその名の通り、船で様々なモノを海上輸送をする業種となります。
輸送品は多岐に渡り、スーパーマーケットに並ぶ肉や果物、衣服、靴やバッグ、家具や雑貨、電化製品、日々読む本や新聞用紙の原料である木材チップ、電気をつくるエネルギーとなる石油、石炭、天然ガスなど様々です。
これらのほとんどが船によって運ばれています。
海運のビジネスモデル
海運のビジネスモデルを理解する上で、定期船事業と不定期船事業を知る必要があります。
まずは、それぞれの事業について解説していきたいと思います。
定期船事業

定期船とは、いわゆるコンテナ船のことであり、決まった寄港地や航路を定期的に就航する船舶のことです。
定期船のメリットとしては、以下が挙げられます。
- 輸送コストを抑えられる
- 輸送効率をアップできる
輸送にはコンテナを使用します。
コンテナに貨物を入れることで、貨物1つ1つを梱包する必要がなくなりますので、輸送コストを抑えることができます。
また、コンテナは規格品を使用しており、これによってクレーンによる積み荷の荷下ろしが容易となりますので、回転率が向上し、輸送効率がアップします。
加えて、人力ではなくクレーンにより積み下ろしとなるため、人件費の節約にもなります。
不定期船

不定期船とは、定期船以外の船舶のことであり、不特定の航路を不定期に就航します。
不定期船には、様々な種類があり、具体的には以下の船舶が挙げられます。
- 自動車輸送船・・・国内外で製造された自動車を各国のお客さんへ輸送する船舶
- ドライバルク船・・・鉄鉱石、石炭、穀物、塩、銅鉱石といった固形系資源を輸送する船舶
- エネルギー輸送船・・・原油やLNG、液体化学製品のなどエネルギー関連製品の輸送をする船舶
※ドライバルク:ドライ(乾燥)とバルク(ばら積み)という単語の合わせ言葉
確認しておきたい指標
海運を投資する上で、確認しておきたい指標が2種類あります。
それは、バルチック海運指数とCCFIです。
これらはいずれも運賃に関する指標であり、この指数の変動によって海運の収益を左右する言っても過言ではありません。
それでは、それぞれの指標について見ていきましょう。
バルチック海運指数
バルチック海運指数(BDI:Baltic Dry Index)は、海運でも最も知られた指標の一つです。
この指標は、不定期船の運賃に関するものであり、1985年1月4日を1000として、運賃の変動を指数化したものになります。
指数が上昇すれば、運賃が上昇しているということになりますので、海運にはプラスとなります。
逆に指数が下落すれば、運賃も下落するので、マイナスとなります。
よく勘違いをされている方がいらっしゃるのですが、この指数はあくまでも不定期船に関するものであり、定期船(コンテナ船)の運賃ではありません。

CCFI
CCFI(China Containerized Freight Index)は、中国から出発する定期船の運賃を指標化したものになります。
中国は世界の工場とも呼ばれ、中国から世界各国へ製品が輸出されます。そのため、中国のコンテナ運賃を確認することで、世界の荷動きを大まかに把握することができます。
2020年の半ばあたりから、急速に定期船の運賃が上昇していることが分かります。
これが近年の海運爆益を産んだ要因となります。
国際競争力を高めるため、海運大手3社のコンテナ船事業を統合し、ONE(Ocean network Express)という合弁会社を設立しました。
この会社が近年のコンテナ船運賃急騰の恩恵を受けて爆益となったため、親会社である海運3社が爆益となりました。
ちなみに、この運賃上昇の要因として、
- コロナ禍からの経済活動回復による需要増
- 商品市況の上昇による需要増
- 港湾の渋滞によるコンテナ不足で供給減
- 需要増加による船舶不足で供給減
などが挙げられます。
2022年7月時点でも依然として高水準であり、次回の決算も期待できるかもしれません。

海運は業績に波がある
海運は好況と不況を繰り返しています。
この理由には、船舶需要が挙げられます。
市況が徐々に活発になると、船舶需要が高まり、運賃が上昇し始めます。
それでも需要が高い場合は、需要に応えるために船舶発注します。
しかし、船舶は就航まで2~3年かかるので、その間高需要が継続していれば、ますます運賃が上昇します。
2~3年後に船舶が就航されると需要が落ち着きますが、市場に船舶が大量に投入されることになるので、逆に船舶が余りだします。
そうなると、荷物を取り行こうとするので、運賃が下落し始めます。
運賃の下落により、収益が悪化し始めます。そして、追い打ちをかけるように船舶の維持費が財務を圧迫しますので、最終的には船舶を売却します。
海運は、このようなサイクルを過去から繰り返しております。

海運3社の特徴
日本郵船、商船三井、川崎汽船は、定期船の運賃が急騰したことで爆益を生み出していました。
その証拠に、2021年度の各社の経常利益を各事業ごとに分けてみてみますと、経常利益の70~80%が定期船によって生み出されていることがわかります。
いかに定期船市況が活況であったかがわかりますね。
そんな絶好調の海運大手3社ですが、定期船を除いて考えたとき、各社どのような強みを持っているのか、ご存じでしょうか。
以下では、各社の特徴について触れておりますので、ご参考までにご確認ください。
日本郵船
海運3社の中で一番利益を出している会社で、国内業界最大手となります。
日本郵船の特徴は、海運業以外に航空運送や地上輸送など、幅広く物流を手掛けていることが挙げられます。
さまざまな企業を子会社化したことで、陸・海・空の総合物流を手に入れ、お客さんに合わせて、最適な物流を提供できるのが強みです。
事業PFが他社とくらべて分散できていますので、本業の海運業が低迷したとしても、比較的安定した収入が期待できます。

商船三井
海運3社の中で2番目に利益を出している会社で、国内業界2位の規模になります。
商船三井の特徴として、海運業に特化していることが挙げられます。
経常利益に占める海運業の割合を見てみると、商船三井は約1.4%となっており、他社をみると、日本郵船は約13.4%、川崎汽船は約2.6%と、海運3社の中で一番低いことが分かります。
それを裏付けるように、商船三井は運航船舶数が多く、世界最大級の艦隊を持っており、かなり海運業に力を入れていることが分かります。
逆に言うと、事業PFの分散が効いていない為、海運市況(主に運賃)によって業績に大きく影響を及ぼします。

川崎汽船
海運3社の中では3番目に利益を出している会社で、国内業界3位の規模になります。
川崎汽船も商船三井と同様に海運業に特化したビジネスモデルですが、商船三井には劣ります。
しかし、他社にない川崎汽船の強みとして、鉄道車両輸送が挙げられます。
インフラ輸出は日本の国策とも言われておりますが、その中の鉄道車両の輸出に関しては、国内で圧倒的なシェアを誇ります。
鉄道車両輸出が活発になれば、川崎汽船の業績に大きく影響を与えることができるでしょう。

2022年後半の見通し
ここまで海運について解説しましたが、これからどうなるのか考えてみました。
そもそもコンテナ運賃が上昇した要因を振り返りますと
- コロナ禍からの経済活動回復による需要増
- 商品市況の上昇による需要増
- 港湾の渋滞によるコンテナ不足で供給減
- 需要増加による船舶不足で供給減
これらはいずれも、経済活動が活発になっていることで生じている問題です。
現状、高インフレ退治のために、世界の中央銀行は相次いで利上げを始めています。
これによって、各企業の設備投資が消極的となり、生産能力が低下し、収益が下落してしまいます。
こうなると、物流が活発でなくなるので、海運にとっては厳しい状況となりそうです。

まとめ
今回は海運について解説していきました。
上記解説をまとめると、以下のようになります。
- 海運は主に「定期船」と「不定期船」の2つの事業に分かれる
- 定期船はコンテナ船のこと
- 不定期船は定期船以外(自動車輸送船、ドライバルク船、エネルギー輸送船など)
- 海運の主な指標は、バルチック海運指数、CCFI
- 海運には業績の波がある
- 海運は景気敏感株
海運に投資する上で、最低限上記の内容を認識しておくべきかと思います。
海運は、依然として配当利回り10%あたりと高水準の配当利回りとなっております。
これから景気後退期に差し掛かる状況下で、景気敏感株に投資することを私はお勧めしません。
高い配当利回りで下値は堅いと思いますが、期中での減配リスクも十分あり得ます。
ですので、私としては、各種運賃と世界景気の動向を注視しながら、海運の動向を見守っていきたいと思います。
おわりに
他業種の分析も行っています。
よろしければ、そちらの方もご確認いただけたら幸いです。




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